バニラスカイに溶けた

アイドルは劇薬だと思うんだ。

月刊「根本宗子」第14号『スーパーストライク』を観た話

根本さんのことを知ったきっかけは、上田くんの新世界ロマンスオーケストラだった。実際に観には行ってないけど、セカロマに関する感想がツイッターはてブロで流れてきて、それを読んでいるうちに興味が湧いて。そんな時に、BSスカパーで放送された「皆、シンデレラがやりたい。」を観たら、これがすごく面白くて。衝撃だった。こんなに面白い演劇があるのかと思った。それから数ヶ月後「スーパーストライク」の情報を知り、意気込んで先行でチケットを取り、下北沢のザ・スズナリへと向かった。


※以下、ストーリーに関するネタバレを含みます。

 

 


主な登場人物は4人。美人だけど我儘な性格で、ツイキャスやモデルの仕事をしているマリ。マリの友人で同じマンションに住むトリマーのエイミー。マリの昔の友人で、今はマリに対する憧れからツイキャスをこっそり視聴している黒川。誰にでも優しいけれど人との距離感がおかしくて友達ができない、ミュージカル俳優を夢見る南くん。そんな4人が、出会い系アプリのティンダーで知り合う話。


舞台上には4つに区切られたセットがある。上の段の左から、ピンク色の可愛らしい雑貨に囲まれたマリの部屋、カラフルな装飾が施されたエイミーの部屋(トイレ)、質素なアパートの一室と思われる和室に少しだけピンク雑貨が置いてある黒川の部屋、そして下の段に横長に配置された、ミュージカルのCDやパンフレットが溢れる南くんの部屋。舞台の前半は主に、一人一人がそれぞれの部屋の中でティンダーを通して南くんと会話して、物語の後半になると南くんの部屋に4人が集まってくる。この舞台の面白いところの1つが、作り込まれたセットだと思う。エイミーの部屋にあるものと同じ雑貨が黒川の部屋にあったり、南くんの部屋のミュージカルグッズのコレクションがなかなかマニアックなものだったり。開演前にあのセットを見ただけでワクワクしたし、後ろの方の席だったから双眼鏡でもっとじっくり観察すれば良かったなあと思う。


マリがティンダーで南くんにスーパーライクを送り、それを見たエイミーと黒川がそれぞれ、マリに対してイライラしている(していた)気持ちから、マリに黙ってスーパーライクを送る。マリは美人で周りからチヤホヤされるような存在で、そんなマリの隣にいる自分はマリの引き立て役で劣等感を抱いてしまう。けれどマリから離れたら、自分が引き立て役であるということを肯定してしまう気がして、離れることができない。

黒川はマリに頼まれて同じマンションに住み、モデルのアシスタントや犬の世話など、マリの我儘を聞いていた。学生時代、マリに好きな人を取られた黒川は一度関係を切ったものの、やっぱりマリのことが気になってしまい、マリのツイキャスを見てしまうし、洋服や部屋のインテリアなど、マリの真似をしてしまう。


女子3人のそれぞれの関係、それを演じる役者さんのお芝居もすごいのだけど、この物語のもう1つの重要なポイントが、田村さん演じる南くんの存在だと思う。一見平凡そうだけど、濃いキャラクターの女子3人に負けじと個性的な人物で、南くんがいるから女子3人の関係を、時に第三者目線で冷静に、そして終盤になるにつれて関係性をかき乱していく鍵となる。

黒川が南くんに学生時代のマリのことを話すと、南くんは「それって悪口のプレゼン?」と答える。黒川とマリの間に昔いろいろあったことは分かった。けれど自分にとっては関係なくて、今、黒川と、マリと、それぞれ友達になれたことが嬉しい、と。ここのシーン「悪口のプレゼン」というワードのチョイスが絶妙だと思った。よくあるよね、自分にとって都合のいい相手を下げることを言って自分を守ろうとすること。それに対して素直に答える南くんが真っ直ぐでいい人すぎて、逆にキツイなあと思った。


物語の後半、エイミーが南くんにスーパーライクを送っていたことをマリが知ると、マリはエイミーに対して数々の罵倒を浴びせる。それを聞いていた黒川が、自分が学生時代にマリの隣にいたこと、マリの我儘に付き合いながらもマリから離れられなかったこと、今もマリの事が気になってツイキャスを見てしまうことを話す。黒川もエイミーもマリに対して似たような気持ちを抱いていたことを知り、黒川とエイミーがマリと対立する。

ここの心理描写に対して、見ながらああ分かるなあと思ってしまった。この絶妙な感情を上手く表現できる根本さんの脚本ってすごいなあと感心してしまった。舞台を見た今、こうやって感想を書いていても自分の中でうまく表現できていない。おそらくこの、黒川とエイミーのマリに対する感情って、周りから憧れられる対象の人は分からないものだと思う。実際、マリは意味が分からないといった反応をしているし。もしかしたら女性同士だとより濃く感じられるものなのかも。南くんはいまひとつピンとこない反応をしているし。むしろこの言い合いを見て、目をキラキラさせながら興味を持っているし(笑)

少し話がずれるけど、マリと黒川の関係って、自分が百名さんに対する感情に近いのかなと思った。好きじゃないし見たくもないのにツイッターはフォローしてるしブログも見てしまうし。気付いたら義務感でチケット申し込んでしまうし。百名さんだけじゃない。自分は興味がない、好きじゃないと思っている人のことがものすごく気になってしまうことって、よくある。あれってなんなんだろう。


ところが、南くんの部屋に矢が飛んできたことから、状況が一変する。部屋に矢が飛んで来るという非日常なシチュエーションが、ストーリーの方向性の転換点になっている気がした。

南くんはティンダーを、友達を作るためのアプリだと勘違いしていて、マリたちからスーパーライクがきたことをきっかけに、いろいろな人に対してスーパーライクを送っていた。マリたちも含めて、ティンダーで知り合った女の子たちに、それぞれ平等に友達として優しく接していた。矢が南くんの部屋に飛んできたのも、女の子のお願いを聞き入れた為のもの。自分は彼女を作るステージにまだ達していない。だから友達として仲良くしてほしいと説明する南くん。最初は南くんは良い人だと思っていたけれど、ストーリーが進むにつれて、南くんが周りとずれた考え方の持ち主で、友達という存在に固執しすぎていることに、女子3人が気づき始める。話がついていけなくなるとメモを取り出して必死に書き留めている。極端な言い方かもしれないけれど、南くんの真っ直ぐさが狂気的に見えてきて、ああこの人ヤバイ人だなって思い始めて。その具合がまた絶妙で、これを演じられる田村さんってすごい人なんだと思った。南くんの真っ直ぐな優しさが怖いし、同時に可哀想にも見えてくる。


結局女子3人と南くんとの会話は平行線のまま。南くんのスマホから自分たちの連絡先を消して、3人は南くんの部屋から出て行く。このまま終わるのかと思いきや、黒川だけが戻ってきて「友達だと思われても南くんのことが好きだ。南くんのことが好きだから、スマホにある他の女の子の連絡先を消した」「今は友達のままでいい。友達から恋人に発展する可能性だってあるでしょ?」と、それに対して南くんは相変わらず「これからも友達でいてくれる?」と。確かに救いがある結末ではあるけれど、黒川なかなか酷いことしてるし、南くんも酷いことされてるのに特に気にもせず友達でいてほしいって言っているし。単純にハッピーエンドで済まないところが面白いと思った。今までの伏線を全部回収してオチに繋げる構図もさすが。


自分のポンコツな語彙力じゃ魅力を全く伝えられないくらい楽しくて、最初から最後までずっと見ながらワクワクしていた。演者さんも素敵な人たちばかりで、ものすごく贅沢な2時間を過ごしたなあという感覚だった。ミュージカル音楽の使い方も、あんなタイミングでこの曲が流れる!?とついつい笑ってしまったし。ほとんどが元ネタを知っていたから余計に。チケ代これだけでいいの?と思ってしまった。行ってよかった。満足感でいっぱいです。