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バニラスカイに溶けた

アイドルは劇薬だと思うんだ。

ある仲田担が観て感じたアンダースタディの話

J

アンダースタディ
understudy

主要な役を演じる俳優の不慮の事故にそなえて,その役を稽古して公演期間中待機している控えの俳優。初めから稽古に参加しており,急場の代役ではない。

 

タイトルを知ったときに、その意味が分からなかったから、とりあえず辞書で調べてみた。

真っ先に頭に浮かんだのは、私が好きな女子アイドルグループの「選抜」と「アンダー」という括りだった。私の推しの女の子*1は、今はアンダーにいる。選抜の子が急な体調不良や怪我で出られないときに、その子の代わりに出演する、そういうポジション。彼女がそのポジションで悩んでいて、選抜を目指していることを知っていたから、正直今回のこの舞台を観るのが怖かった。拡輝が彼女と同じようなポジションの役を演じる姿を見るのが、怖いと思った。だって、その子以上に「ジャニーズJr.」というポジションは不安定なものだから。舞台は所詮舞台の話、フィクションなのだと頭では分かっていても、受け入れられないかもしれない、そんな心配をしていた。

 


ダイキ、シュン、コータの3人はアンダースタディ。主役のミラクルは歌もダンスも芝居も下手で向上心がなくて、人気とゴリ押しだけで舞台の主役に選ばれた。せっかくアンダーの3人の見せ場を作ろうとするものの、演出家に却下されてしまう。なんであの人が主役で俺らはアンダーなんだろう、と居酒屋で愚痴をこぼす日々。そんな日常から、物語が始まる。
「アンダースタディ」という立場の悩み、普通に就職して社会の歯車として生きている友人とのギャップ、そして恋愛。いろんな要素が複雑に絡み合いながら、3人は将来を模索して前に進んでいく。3人だけじゃない。演出家、演出家、マネージャー等、それぞれの立場でそれぞれの悩みを抱えている。

きっと、こういう状況ってフィクションだからこそ、というものではなく、普通にあることなのだと思う。演劇に限った話ではなく、社会全般において、理不尽な状況に対する苛立ちと葛藤。その度に、なんで自分は…って悔しがる人もいるだろうし、それをバネにして頑張ろうと考える人もいる。
少し話が逸れるけど。実際、拡輝が演じるコータ役にはアンダースタディがいた。そのことを知ったのは、舞台が始まる前の雑誌のインタビューだった。初めてこの時、怖い、不安だ、と感じた。当時、このインタビューを読むタイミングで、拡輝が体調不良だったこともあるのだけど。もし初日の幕が開いて、拡輝がいなかったらどうしよう、と考えた。拡輝のポジションを羨ましがって、キャストの降板を考えて、その場所を奪おうと思っている人がいるのかもしれない、なんてことを想像した。アンダースタディが存在することとは、つまりそういうことなのだと思う。

中盤、主役のミラクルの降板が告げられて、シュンが主役に昇格したところから、物語は動き始める。最初はシュンが主役になったことを喜ぶダイキとコータだったが、シュンの態度が変わってしまい、立場の違いから今までと同じように接することができなくなり、関係がギクシャクする。この時シュンは主役を演じることに対することに対して悩んでいて、ダイキとコータはシュンのアンダースタディになることを告げられて、それぞれ悩んでいるのだが。
3人の関係が拗れていくこのシーンは、後から冷静に考えると見ていて辛いと感じるのだけど、劇中ではそれをあまり感じさせないくらい、場面が次から次へとリズムに合わせてテンポよく切り替わっていく。私はこの、リズムに乗せて次々と場面が切り替わる一連の流れが好きだった。

個人的に好きなシーンが二つあって。一つはダイキの2分間スピーチのシーン。地元の花火大会の思い出を話すのだけど、最後に「好きな人と一緒に見たい」と話すのが、ミライに恋しているダイキの可愛らしい部分が表れているなあと思う。シュンとコータが階段の上から、優しい眼差しでダイキの話を聞いているのも、微笑ましい光景で好きだ。
このシーンが終盤の、劇中劇が終わってから3人で花火大会に行くシーンに繋がっている。もう一つの好きなシーンがこれ。ダイキだけが知っている秘密の場所に、シュンとコータを誘うのだけど。ミライを振ったからだというのは分かるけど、ダイキにとっての「好きな人」が、この2人なんだなあって(笑)花火を見つめる表情が三者三様で、そんな3人が一つの場所で、3人だけの時間を共有しているところが、キラキラしていて、それと同時に儚くて素敵だと思った。

シュンは主役を演じることで報われるのだけど、ダイキとコータは最後まで裏方のまま、報われることはない。それでもこの舞台を観終わった後にあったかい気持ちになるのは、最後のシーンがあったからだと思う。数か月後なのか数年後なのか分からないけど、3人が当時稽古帰りに寄って喧嘩した居酒屋のあった場所で、お披露目されることのなかったバックダンサーとしてのダンスを踊る。その、踊っている時の表情が晴れやかで清々しい顔だったから、きっとそれぞれが明るい未来を歩んでいるのだと想像できる。コータはきっとあれが最後のアンダースタディだったと思うし、ダイキもシュンも役者として成功しているのだと思う。あくまで私の勝手な解釈だし、必ずしもそうだという根拠はどこにもないのだけど、あの表情を見たら暗い未来なんて想像できなかった。


本編全体に言えることだけど、アンダースタディという重くシビアなテーマを取り扱っているのに、重くなりすぎず、でもテーマの重みもしっかり残して、作品の面白さを感じさせられたのは、演出と脚本の力が大きいのだと思う。シリアスと笑いのバランスが絶妙だと感じた。
また、どのキャラクターにも人間味があって、そのキャラクターの発言や行動に対して苛立ちを感じたり、もやもやしたりすることもあるのだけど、それと同時にどこか共感できる部分もあって。だから、誰に対しても憎めないと感じた。具体的に挙げると、コータが「これでアンダーをやるのは最後」と口にしてしまったシーンや、ダイキがシュンを勇気づけようと嘘をついてミライを傷つけたシーンなど。
たぶんこれらが、この作品の舞台としての面白さなのだろう。フィクションなのだけど、リアルに通じる世界の話。宮川さんってすごい人なのだと、改めて感じた。

 

*1:乃木坂46伊藤万理華ちゃん。彼女が参加している「あの日 僕は咄嗟に嘘をついた」という曲がアンダースタディをテーマにした楽曲なので、ぜひ聞いてもらいたい。

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